エーフィ 「みらいよちを、忘れよう」
- 2020.03.23
- SS
(どこだ、ここは)
ふと目が覚めた。
いつも隣にいるはずのご主人様がいない。
目の前にはL字に流れる川。川の反対側と向こう岸には、岩がある。
私は川と岩に囲まれた、見覚えのない場所にいた。
辺りには人間どころか野生のポケモンすらいない。
みゃう、と小さくご主人様の名前を呼んでみる
しかし私の声は誰の耳にも届かない
とりあえずご主人様が迎えに来ることを信じて待つことにした
(…雨か)
空気の流れが雨を知らせる
私のビロードの体毛はそれを感じとった。
雨が降る前に避難しておこうと、大きな木の下に移動した
川で少年がなみのりをしている姿が見える。
そんなことより、腹が減った。
思えば四日間何も食べていない
雨が降ってきた。
寒さと空腹を紛らわせるために寝ようと、目を閉じた
再び目を開けると、なみのりをしていた少年が雨宿りしようと走って来ていた。
「ふー、助かった。ん?」
少年がこちらを見る。エーフィだ、と声を上げた
「なんでエーフィがこんな所に…?」
少年は私の目の前まで近づいてきた
「まさか…捨てられたのか?」
そうだ。お前と同じ人間に、捨てられたのだ。
威嚇して追い払おうとしたが、少年の顔を見て思い止まってしまった。
少年は悲しい顔をしていた。
何故お前がそんな顔をする?お前は何も悲しくないだろう?
不思議に思っていると、少年はバッグから何かを取出し、私の前に置いた。
きのみだ。嬉しく思ったが、口にしなかった。
人間は、信じない。
「じゃあね。また来るよ」
少年は去っていった。
雨宿りしにきたはずなのに。
気を遣ってくれたのだろうか
カメックスに乗って川を下っていく少年の背中を見つめ、私は眠りについた
うん、嬉しい!
『いい音色だろ、この鈴』
本当だね、ご主人様
『タウリンでも飲むか?』
ありがとう、ご主人様
『イーブイ、どろかけだ!』
『よくやったな!偉いぞ、イーブイ』
これからも頑張るね、ご主人様
『やった!エーフィに進化した!これからもよろしくな、エーフィ!』
うん!大好きだよ、ご主人様
────────………
「おーい、エーフィー!」
少年の声で目が覚めた。
夢を見ていたのか。
私はまだきのみを食べていなかった
「食べなきゃ元気でないよ?そうだ、紹介するよ!」
少年が取り出したモンスターボールからピカチュウが飛び出した。
「こいつはピカチュウ、仲良くしてやってくれ」
ピカチュウは赤いほっぺに少し火花を散らせ、私にあいさつをした
無視しようと思ったが、なんとなく悪い気がしたので私も軽くあいさつをした
「今日はいっぱい持ってきたからエーフィもどんどん食えよ!」
ピカチュウは山の様に積まれたきのみをバリバリ食べて崩していく
ぐぅ~…
うまそうに食べるピカチュウをしばらく見ていたせいだろうか腹が鳴った
優しい目でこちらを見つめる少年
山から転がってきたきのみを一口かじってみる
…おいしい
腹が減っているからなのか、昔食べたものより、ずっとおいしく感じた
きのみの山は跡形もなくった。私とピカチュウで全て食べてしまったのだ。
その後、少年は旅の話をしてくれた
「あれ、もうこんな時間か。また明日も来るよエーフィ!」
少年はまたカメックスに乗り、川を上っていった。
少し、楽しかった。
明日も来るのだろうか。
みらいよちをしてみる
私は少年と一緒にいた
そういえば、私のみらいよちがはずれている。
前に見た時は、独りぼっちの私しか見えなかった
…たまたまだろう
少年の話を思い出しながら私は眠りについた。
今日も少年の声で目が覚めた。
「聞いてくれよー、昨日おかあさんが……」
このところ毎日少年は私に会いに来てくれている
その度にきのみを持って、私に旅の話をしてくれる
「…でさ…その時……ピカ………チュ…が…………」
話の途中で少年は寝てしまった。
今日は天気がよく、暖かい。眠くなるのも仕方ないだろう
〈よう。〉
少年の腰につけたモンスターボールからピカチュウが飛び出した。
少年のバッグからサイコソーダを2本取り出すピカチュウ
〈ありがとう〉
私はそれを受け取り、蓋を開けた
〈お前さん…捨てられたんだってな〉
サイコソーダを持つ手が止まる
〈こいつはお前さんに人間を嫌いになってほしくないみたいだぜ〉
〈今は誰のことも信用してねぇかもしれねぇが、こいつは信じてやってくれ〉
人間を嫌いになってほしくない……
そんな事を思って毎日私の為にきのみをかき集めて会いに来てくれていたのか
私は気持ちよさそうに寝ている少年の顔を見つめた
確かにエーフィは皆みらいよちが得意だ。
トレーナーを守る為にこの能力は発達したと言われているのだから。
〈得意だよ。今日もお前達が来ることもわかっていた〉
あれから私は毎日みらいよちをしている。
また突然独りになるのが怖かったからだ。
反射的に私の耳がぴくっと動く
〈明日何があるかわからないからこそ楽しみで、毎日が幸せに思えるんだ。それが全部わかってるなんて、俺は嫌だね〉
わからないことが幸せなど、考えたこともなかった。
"未来"が"過去"になることが楽しかったし、それをご主人様に伝えて褒めてもられることが幸せだった。
〈使うなとは言わない。ただ、見えない未来もいいものだということを伝えたかっただけだ〉
サイコソーダを一気に飲み干すピカチュウ
それだけだ、と言ってモンスターボールに戻っていった。
夕方になって、少年はようやく目覚めた
「ご、ごめんエーフィ!俺いつの間に寝たんだろう…?」
「はっ!今日はタケシと再戦の約束してたんだった!」
「ごめんエーフィ、行ってくる!お詫びに明日はたくさんきのみを持ってくるから!」
少年は慌ただしく行ってしまった。
それよりピカチュウの言葉が頭から離れなかった
繰り返し考えていると、いつの間にか夜になった
その夜、私はみらいよちを使わずに寝ることにした
聞き慣れた言葉だが、いつもの少年の声ではなかった
もっともっと、聞き慣れた声。
ご主人様だった
「おいでエーフィ、ごめんな置いてきぼりにして」
嬉しいという感情が一気にこみあげてきた
ご主人様のせいで人間を嫌いになっていたが、心のどこかで私はまだご主人様を愛していたのだ。
本当にご主人様の所に戻ってもいいのか?
一度私を捨てた人間だ。また捨てられるかもしれない。
信じたくても信じきれない。
それに、あの少年の存在が私の中でかなり大きくなっていた
聞き慣れた言葉が、聞き慣れた声で私の耳に届いた
少年は、ご主人様を見て表情があからさまに曇った
少「誰ですか」
主「俺はこいつの飼い主だよ」
少「あんたが元飼い主か」
主「元って何だよ」
険悪な空気が流れる。
主「あぁ。フーディンの方が強いと思ってね。でもやっぱりエーフィの方が強い気がしてきたから引き取りに来たんだ」
少「勝手な事ばっかり言うなよ。あんたエーフィがイーブイから進化する条件を知ってるか?トレーナーに本当になついていないと進化しないんだ」
少「エーフィはあんたを信じてたんだ。それを裏切られたエーフィの気持ちをわかってるのか!?」
声を荒らげる少年
少「エーフィ。俺と一緒においで。もうこいつに振り回されちゃダメだ!」
私に向かって両手を広げる二人
私はどちらに着いて行けばいい
そうだ、みらいよちで未来を見て決めよう。
未来の私と一緒に居る方に着いて行こう…
私の額の玉が輝きだした時、またピカチュウがモンスターボールから飛び出した
ピカチュウにはバレていた。
額の玉から光が消える
〈でも…〉
〈あいつはお前さんがあっちに着いて行ったとしても恨みはしねぇよ。ただ、お前さんに幸せになってほしいと思ってるんだ。〉
〈あいつは、あっちに着いて行ってもお前さんは幸せになれねぇと思ってる。あいつだけじゃねぇ、俺もだ。だから、俺達と一緒に来い〉
信じて、いいのか
俺からは以上だ。と言ってピカチュウは少年の肩に登った
ご主人様か少年か。
どちらに着いて行けば幸せになれるかではなく、ポケモンとしてどちらの為に戦いたいかを考えた。
私は、少年を選んだ
ご主人様は舌打ちをして帰っていった
後悔はしていない
「ありがとう俺を選んでくれて!」
少年は嬉しそうに私の頭をいっぱい撫でた
そうか、少年はレッドという名前だったのか
私にはレッドの仲間になる前にしておこうと思った事がある
みらいよちを、忘れよう
私はレッドと、ピカチュウの言葉を信じてみることにした
「どうした?」
レッドのバックからわざマシンを引っぱり出す
「それリフレクターだぞ?覚えたいのか?」
リフレクターなら覚えられる。私は首を縦に振る
「覚えてるわざは…サイコキネシス、スピードスター、どろかけ、みらいよちか…。忘れるのはみらいよちでいいか?」
もう一度首を縦に振った
これから私はレッドと共に、挑戦に来るトレーナーと全力で戦おう
シロガネ山の最奥部で。
おわり
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