ライチュウの絶望
- 2020.04.02
- SS
俺はライチュウ。
全国図鑑No.026でタイプはでんきだ。
家族も金も地位も何もない。
俺の愚痴を聞いてくれ。
学校では人気もそれなりで成績は普通といった感じだった。
俺には物心がついたころから親はすでにいなかったが弟が一人いた。
そのころは血の気も多く、まだまだ青かった。
次第に森の4分の1ほどが俺の縄張りになってた。
「黄色い閃光」という異名もとったほどになっていた。
そう、青かった黄色い閃光なのに青かったんだ、あのころは・・・
デパートとかいう建物で黄色く光る石を見つけた。
その石を見て血が騒いだのを今でも覚えている。
気づいたときには建物の外で口にさっきの石をくわえていた。
その瞬間俺はライチュウになっていた・・・
そのときはポケモン自体そんなに人気もなく、ピカチュウはライチュウに進化させるのが当然だったころのはなしだ。
気づけば森全体が俺のテリトリーになっていた。
昔から俺は高いところが好きだ。森で覇を唱えた俺にとって森の景色は格別だった。
でも、俺があの時いた場所は高すぎて足元が見えなかったんだ・・・
俺は森のパトロールに出かけていた。
そのとき目の前で人間に連れ去られる弟のピカチュウを見たんだ。
「やっと見つけたぞ!」
「こっちにまわれ!」
「に、兄ちゃん!」
弟は俺を見つけて助けを求めた。俺は有無を言わず飛び出していた。
叫んだが人間どもは聞く耳を持たずひたすら弟を追っていた。
当然だ。
ポケモンの言葉は人間には理解できない。
つくづく世の中って不公平だと思う。
やっと人間たちは俺に気づいたらしく、
「ライチュウ!?何でこんなところに?」
「いけ!サンド!」
人間はポケモンで俺を迎え撃つつもりらしい。いい度胸だ。
「飼いポケモンのくせに!!」と飛び掛った。
その刹那に目に何かが刺さった感覚がした。
「いいぞサンド!すなかけ成功だ!このままあなをほるだ!」
「ぐぅっ、砂だとォ?」
屈辱的だった。
黄色い閃光が砂で止められるなんて。
「ちくしょおおおお、なめるなっ!?」
下から何か来る!?
俺は空中に舞い、地面にたたきつけられた。体が動かない・・・
朦朧とする意識の中で弟が捕まったのが見えた・・・。
「やりましたね、オーキドさん!」
「あぁ、これで研究がはかどるわい。」
これが・・・飼いポケモンか・・・目の前が真っ暗になった・・・
「ここは・・・?」
森の王の権力で作った俺の自宅だった。
聞けば1週間寝ていたらしい。
体中がズキズキ痛む。
相当喰ったらしい。
あのあと人間たちはマサラタウンに向かったことを知った。
俺は弟を取り返すことしか考えていなかった。
俺が持ってる情報はオーキドっていう名前とマサラタウンに向かったことだけだった。
かつて、俺が10歳を越えたころ近くに住んでいたパラスおんじ聞いた言葉がある。
聞いたときは「なんのジジイが」と思っていたがあながち老人の言葉は聞くもんだと思った。
その言葉は・・・
「井の中の蛙大海を知らず」
今の俺にぴったりの言葉だ・・・
昔から喧嘩慣れしているせいか治りは早く、1ヶ月ほどで元通りの速さを出せるまで回復した。
そのころはポケモンセンターという施設を知らなかったし元々ポケモンだけじゃ入れなかった。
黄色い閃光は復活した。あとはあのオーキドとかいうジジイをぶっ飛ばすだけだ。
俺は独りトキワの森を出発した・・・
蹴飛ばされて「2度と来るな野良ポケモンが!!」と怒鳴られたり、りんごをもらっただけで追い掛け回されたりと人間社会は全く理解できない。
2週間ほど居たがあの忌々しいジジイはいなかった。
おれはさらに南のマサラタウンに向かった。
途中でコラッタとかいう俺に似た姿のやつらが家に泊めてくれた。
ポケモン同士で人間の愚痴を語り合った。
彼らのなかに見たところ老いているやついた。
そいつは「もうすぐポケモンが人気になる」と豪語していた。
でも俺は「じいさん面白いこと言うね!」と軽く流した。
今考えるとすごい予言だと思う。
池が見えた。見れば見渡す限りのでかい池である。休憩でもしようとその池の水を口に運んだ。
しょっぱい・・・。
海を知らなかった俺にとっては毒を飲んだ気分だった。
あの時はほんとにびっくりした。
ねころんで空を見ていた。
「空って青いんだ・・・」
何から何まで新しい発見だった。
一瞬弟を忘れていた・・・。
呼ぶと降りてきた。
ポッポとかいうらしい。
マサラタウンの方向を聞き、俺はまた歩き出した。
日が傾いてきたころ町が見えた。
マサラタウンだ・・・
マサラタウンは静かで道行く人は少なかった。
まっすぐ歩いていると海にたどり着いた。
ふと後ろを振り向けばそこに「オーキド研究所」なる大きな建物があった・・・
俺は建物を見ているだけでイライラしてきたが前には進めなかった。
恐がっている・・・足は震えていた。
意を決して扉を開けた・・・
「?・・・誰じゃ?」
!?
間違いない。
オーキドの声だ。
あいつが・・・弟を奪ったあいつがここにいる・・・
「やいジジイ!弟を取り返しにきたぜ!観念しな!」
震えながら言った。
「ん~?ライチュウか。なんでマサラタウンにライチュウがいるんじゃ。」
「あ~!こいつ確かこの前トキワの森に行ったときに喧嘩売ってきたやつですよ。」
「そんなこともあったっけかな?」
オーキドは完全に俺を忘れていた。この態度に俺の堪忍袋の緒はブツリと切れた。
「貴様ァァァァァァァ!!!!!!」
半泣きで飛び掛った。
だが軽くあしらわれ庭に放り出された。
庭では新入りの洗礼とばかりにボコボコに叩きのめされた。
オーキドはこれをわかっててやったらしい。
どこまでも憎らしいやつ・・・
意識は遠のいていった・・・
あたりは朝だった。
視線の向こうでは見たこともないやつらが飯を食っている。
痛みと空腹感で体は動かなかった。
しばらくすると建物から人が出てきた。
オーキドではない。
「君はすごいね、仲間を助けるためにトキワの森からきたのか。」
弟だよヴォケ・・・
「一応ご飯おいとくから、とられないうちに食べるんだよ。」
何とか手を動かして用意されたものを食べた。
この際毒だろうと関係なかった。
うまい・・・なんだこれ・・・りんごよりうまいよ・・・。
茶色くてきれいな形をした塊だった。
「ポケモンフード」というらしい
建物の中から声がしてきた。
「キャーーー!!!シゲルーーーー!!がんばってェーー!!」
五月蝿かった。
俺は寝ることにした。
Zzz・・・
「遅れてすみません博士・・・。」
「全く・・・同じ年のやつらはみんないってしまったぞぉ・・・」
「で、俺のポケモンは?」
「ない。」
「そんなぁ~ん博士ぇ~ん」
「どうしてもというのなら・・・う~ん・・・どうしよう・・・」
「え?ポケモンいるんですか?」
「これだ。」
「? なんだこの黄色いの・・・。」
「ピカチューーーーーー!!!!」
「ぎゃああああああっ」
「ねずみポケモンのピカチュウじゃ。見てのとおり扱いにくいんじゃ。」
「ピカチュウか・・・・・・君に決めた!」
「え?いいのか?後悔するぞ。」
「俺はこれで行きます!じゃ!」
弟よ・・・今いずこ・・・
おわり
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