ガブリアス 「フライゴンさん、遊んで~」
- 2020.04.10
- SS
(某所のパソコン、ボックス1)
フライゴン「…今、何時だ?」
ガブリアス「えっとねえ、多分、朝の6時くらい」
フライゴン「帰れ」
ガブリアス「えー」
フライゴン「俺が昨日、試合だったのは知ってるよな」
ガブリアス「………」
フライゴン「試合の翌日くらい、ゆっくりしたいってのも分かるよな」
ガブリアス「………」
フライゴン「俺はいつも、お前に何て言っている?」
ガブリアス「…相手の立場になって考えろ」
フライゴン「それを守っていれば、用もないのに早朝にいきなり来て、遊べとか言い出したりはしねえはずだ。分かったら帰れ」
ガブリアス「………」
ガブリアス「…フライゴンさん冷たくなった…」
フライゴン「ああ?」
ガブリアス「前はそんな言い方しなかったのに」
フライゴン「それはお前がまだフカマルで、右も左も分からなかった頃の話だろうが」
ガブリアス「…まだあれから半年しか経ってないもん…」
フライゴン「半年だろうが何だろうが、お前はもう立派なガブリアスなんだよ」
ガブリアス「…ガブリアスになったのだって半月前だもん…」
フライゴン「お前、おかしいぞ。言ってる事や、口調までフカマルの頃に戻っちまったのか?」
ガブリアス「………」
フライゴン「だけどな、対戦相手のトレーナーやポケモンは、そんな事はこれっぽっちも考えてなんかくれねえぞ」
ガブリアス「………」
フライゴン「敵はお前を、強ポケのガブリアスとして全力で潰しにくる。厳しいかも知れねえが、受け入れてやっていくしかねえ」
ガブリアス「………」
フライゴン「だからお前がガブリアスになったとき、言ったはずだ。もう新人とは思わねえ。一人前のポケモンとして扱うってな」
ガブリアス「………」
フライゴン「お前も納得したはずだ。むしろ嬉しがってるように見えたがな。それなのにどうした。今になって急にガキみてえな事を」
フライゴン「何だって?」
ガブリアス「僕がガブリアスだから…」
フライゴン「?」
ガブリアス「ガブリアスがフライゴンの活躍の場を奪ったから…」
フライゴン「なるほどな」
ガブリアス「………」
フライゴン「様子がおかしいと思ったが、そういう事か。どこでそんな話を聞いてきた?」
ガブリアス「…昨日、よそのトレーナーのところのガブリアスが…」
フライゴン「そうか」
ガブリアス「ガブリアスのくせに、何でフライゴンなんかについて歩いてるんだ、って…」
フライゴン「どんな事を言ったのかは、聞かなくても想像がつくな」
ガブリアス「えっ」
フライゴン「意外か?」
ガブリアス「だって…」
フライゴン「じゃあ聞くが、お前、俺と戦ったら負けると思うか?」
ガブリアス「そりゃそうだよ…だって…」
フライゴン「お前が新入りだった頃のイメージは捨てろ。昨日だって俺の試合を見てるだろ。俺を対戦相手として見てみろ」
ガブリアス「………」
フライゴン「その上で、今のお前の戦力と戦わせてみろ。どうだ、怖いか?」
ガブリアス「………」
フライゴン「今はまだレベル差があるから、どう転ぶか分からない部分はあるさ。だが、ごく近い将来、俺はどうあがいてもお前には勝てなくなる。間違いない」
ガブリアス「…見ない。ほとんど」
フライゴン「だがガブリアスはイヤってほど見るだろう。それが答えだ」
ガブリアス「………」
フライゴン「フライゴンとガブリアスはタイプが同じで、能力はあらゆる面でガブリアスが上回っている。だとしたら、わざわざフライゴンを使う理由はねえ」
ガブリアス「でも…」
フライゴン「いまだに俺を試合に引っ張り出すうちのマスターなんかは、もう変わり者の領域なんだよ」
ガブリアス「………」
フライゴン「フライゴンにできる事で、ガブリアスにできない事はあまりない。対戦で重要な事は、ほとんどないと言っていい。トレーナーが勝つためにやってる以上、ガブリアスを使うのは当然の話だ」
ガブリアス「………」
ガブリアス「?」
フライゴン「お前は、昨日お前が出会ったヤツみてえな、くだらないガブリアスにはなるな」
ガブリアス「くだらない?」
フライゴン「そいつは多分、俺より強いだろう。だがそれでも断言できる。くだらないヤツだ」
ガブリアス「どうして?」
フライゴン「そいつは生まれた時から、強者に近い場所にいるヤツだろう。それなのに他人を貶めて、ちっぽけな自尊心を満足させている。およそ考えつく限り、最もくだらない行為だ」
ガブリアス「………」
フライゴン「馬鹿な話だ。遊んでいても、そこらへんのポケモンなら軽く倒せる力を持っているんだ。ただ勝ち続ければ、それだけで強さは証明され、尊敬もされるだろう」
ガブリアス「………」
フライゴン「自分の人格に問題がある事を、吹聴して回るような真似をする意味がどこにある?自覚してやってるなら下劣だし、自覚していないなら馬鹿だって事だ」
ガブリアス「!」
フライゴン「自分より弱いヤツを見下したくなるのは、ある意味、仕方がないのかも知れねえ。だが、それを口に出すのと、沈黙を守るのとでは、大きな差があるって事は覚えておくべきだ」
ガブリアス「…最後って何?」
フライゴン「?」
ガブリアス「どうしてそんな事言うの!?」
フライゴン「分かるだろ。これからのお前に必要なのは、もっと実戦に役に立つ助言だ。お前より弱い俺に、何か言えるような資格があると思うか?」
ガブリアス「どうでもいい!そんなのどうでもいいよ!」
フライゴン「………」
ガブリアス「…フライゴンさんはガブリアスが嫌いなの…?」
フライゴン「ガブリアスに恨みを持ってるフライゴンは、大勢いるだろうな」
ガブリアス「フライゴンさんはどうなの…?やっぱり僕の顔なんか、見るのもイヤなの…?」
ガブリアス「………」
フライゴン「分かった。一人前のポケモンとして扱うって言ったからな。腹を割って話すよ」
ガブリアス「…うん」
フライゴン「お前に会う前の俺が、ガブリアスに対して、思うところがなかったと言えば嘘になるだろうな。比較されては、ずいぶんと不愉快な思いもしてきたよ」
ガブリアス「………」
フライゴン「一応言っておくが、うちのマスターやポケモンには、そんな目にあわされた事は一度もねえ。だが、お前が昨日会ったガブリアスみてえな輩は、結構多いもんだ」
ガブリアス「…うん」
フライゴン「でな、うちのマスターは、なかなかガブリアスを仲間にしなかった。トレーナーの間じゃ、使用率は一二を争う強ポケで、入れりゃ戦力アップは確実だってのにだ」
ガブリアス「………」
フライゴン「だからな、お前が入って来た時は、ほっとしたってのが正直なところだったよ。俺との付き合いが長いとか、そんなのは気にしねえで、勝つ事を考えて欲しかったからな」
ガブリアス「そうだったんだ…」
フライゴン「さて、そうやってうちにフカマルが入ったわけだが、どういうわけかそいつが、やたらと俺の後をくっついて来たがってな」
ガブリアス「だって…」
フライゴン「別に責めてるわけじゃねえ。来たばっかりのお前に、空気読めってのも無理な話だ。ただ、何でよりによってフライゴンに、とはみんな思ってただろうな」
ガブリアス「………」
フライゴン「実際、マリルリやチャーレム、ムクホークあたりは、お前を預かろうかと申し出てくれたよ。みんな面倒見がよくて、信頼できるヤツらだ。それもいいかと思った」
ガブリアス「理由?」
フライゴン「俺がお前と付き合ってみて、性格的にどうしても合わねえとか、そんな感じのわけがあるなら、他に適任がいるなら回せばいい。だが、違うだろう、と」
ガブリアス「………」
フライゴン「お前の性格に問題はねえし、相性だって悪くないと思った。じゃあ、俺がお前をよそにやろうって理由は、お前が将来、ガブリアスになるヤツだからっていう、ただそれだけだ」
ガブリアス「………」
フライゴン「誰だって、自分がなりたい存在に生まれてこられるわけじゃねえ。俺がフライゴンなのと同じように、お前がフカマルなのも、お前が何かを選択した結果、決まった事じゃねえ」
ガブリアス「…うん」
フライゴン「こっちを気に入ってくれる若いヤツを、種族を理由に拒絶しちまえば、それは結局、俺をフライゴンだからって理由で馬鹿にしてる連中と、根っ子のところで同じじゃねえかって思ったわけだ」
ガブリアス「うん」
フライゴン「本当にやってよかったと思うよ。結局、ガブリアスだとかフライゴンだとか、そんなのは関係ねえんだなって分かった。同じ種族でもイヤなヤツはいるし、違う種族でも友達になれるヤツはいる」
ガブリアス「うん…うん…」
フライゴン「お前は俺にとって、かわいい後輩だよ」
ガブリアス「うっ…うぅ…」
フライゴン「馬鹿野郎。そのくらいで泣くな。それにな、かわいい後輩で満足してもらっちゃ困るんだよ」
ガブリアス「…?」
フライゴン「とっとと頼もしい後輩に進化してくれ」
ガブリアス「うん…僕…頑張るよ…」
フライゴン「謝る?何をだ?」
ガブリアス「僕のせいで、フライゴンさんにずっとイヤな思いをさせてたんじゃないかって…」
フライゴン「………」
ガブリアス「僕がなんにも知らなかったから…いつも僕がフライゴンさんの後をくっついて回ってたから…だから仕方なく、僕の面倒を見ていてくれてたんじゃないかって…」
フライゴン「そうか」
ガブリアス「だから、謝ろうって決めたんだけど…いざフライゴンさんの前に出たら…怖くて…」
フライゴン「怖い?」
ガブリアス「…フライゴンさんに、本当はお前の事なんか大嫌いだったって言われるかも知れない…そう考えたら、すごく怖くなって…」
フライゴン「それで、遊んで、か」
ガブリアス「………」
ガブリアス「そんな事ないよ!僕の方が、謝ろうって決心したのに勇気がなくって…」
フライゴン「…なあ、せっかくこうやって腹を割って話せたんだ。俺の方からも一つ聞いていいか?」
ガブリアス「えっ。うん、いいよ」
フライゴン「お前、フカマルの頃に、何で俺の事があんなに気に入ってたんだ?どうも理由が分からねえんだが」
ガブリアス「…えっと…その…最初のきっかけは…フライゴンさんの尻尾が…」
フライゴン「…尻尾…?」
ガブリアス「…シマシマで、先っぽに何かついてて、面白かったから…」
フライゴン「………」
ガブリアス「………」
ガブリアス「き、きっかけはだよ、きっかけは!」
フライゴン「ヘコむわー。聞くんじゃなかったわー」
ガブリアス「もっもちろん今は違うよ!フライゴンさんの人柄とか!人格とか!」
フライゴン「今さら何を言っても、尻尾フェチ野郎の言い訳にしか」
ガブリアス「えっ!?フェチって何!?」
フライゴン「まあいいけどな。だがなガブリアス、これだけは言っておくぞ」
ガブリアス「?」
フライゴン「しっぽをふるを使ってくるポケモンは、しっぽをふられる前に倒せ」
ガブリアス「うわあああああん!フライゴンさんの意地悪!」
フライゴン「ははは、何も泣く事ねえだろ。冗談だよ冗談」
ガブリアス「うぅ…」
フライゴン「まあ、お前にはこれからエースとして頑張ってもらわなきゃならねえんだから、尻尾好きもほどほどにしとけよ」
ガブリアス「………」
フライゴン「おっとすまねえ。ちょっとしつこかったな」
ガブリアス「ううん、そうじゃなくて…」
フライゴン「?」
ガブリアス「僕が頑張ると、その分、フライゴンさんの出番を取っちゃう事になるのかな…」
フライゴン「そんな事は気にするな」
ガブリアス「でも…」
フライゴン「確かに試合に出るのは嫌いじゃねえし、マスターの使い方が良くてそこそこ勝ってはいるが、俺にはもっとやりたい事があるからな」
フライゴン「ああ。もう一度、空を飛ぶを覚えて色んなところに行ってみてえ」
ガブリアス「空を飛ぶって、秘伝技の?」
フライゴン「おう。昔は俺が飛んでたんだがな、トレーナー戦に出る機会が増えたんで、外れたんだ」
ガブリアス「そうだったんだ」
フライゴン「好きなんだ、飛ぶのが。お前はどうだ?」
ガブリアス「僕はあんまり…」
フライゴン「そりゃそうだな。お前は本当に、一応飛ぶ事もできるってだけだからな。何度か見たが、ありゃひどかった。人を乗せるなんて絶対に無理だな」
ガブリアス「フライゴンさん!ひどい!」
フライゴン「ははは、まあそう怒るな。一つくらいお前より得意なもんがないと、こっちも立つ瀬がねえ」
ガブリアス「うん」
フライゴン「人の仕事にケチはつけたくねえが、マスターがフワライドにしがみついて飛んでるのは、どうにもおっかなくて見てられねえ」
ガブリアス「確かにあれはちょっと…」
フライゴン「絶対に俺の方がうまく飛べる自信がある」
ガブリアス「うん、僕もそう思うよ!」
ガブリアス「うん…」
フライゴン「何にも面白い事なんてねえ。でも出て行く度胸もねえ。ただ目的もなく生きて、いつかただ死んでいくんだって思ってた。そんなある日、マスターに出会った」
ガブリアス「………」
フライゴン「マスターと旅して、色んなもんを見たよ。どこまでも広がる海と水平線、天にも届きそうな山と断崖、真っ白な雪原と凍りついた湖。世界はこんなにも広くて、美しいんだって思った」
ガブリアス「………」
フライゴン「不思議なもんでな。色んな美しいものを見て、そうしてたまにあの故郷の砂漠を思い出すとな、あんなに嫌いだった風景が、あれはあれで美しかったんだなって感じるんだよ」
ガブリアス「………」
フライゴン「…っておい、ガブリアス…?」
ガブリアス「………」
ガブリアス「……ぅ…」
フライゴン (いや、昨日はろくに寝てないんだろう。ガキなみのオツムで、こいつなりに色々考えたってわけか)
フライゴン (………)
フライゴン (なあガブリアス。俺には分かる)
フライゴン (お前は強くなる)
フライゴン (俺なんかがいなくても、1人でも立派にやっていけるようになる)
フライゴン (そしてマスターにたくさんの勝利をもたらすだろう)
フライゴン (そこまでは分かる。確信してる。だが…)
フライゴン (そこから先の事は、俺には分からねえ…)
フライゴン (いつか、今は俺たちの知らないポケモンとも戦う日がやって来る)
フライゴン (その時、お前の強さは通用するのか…)
フライゴン (今は確かなものに見える強さも、たった1つの新しい特性、新しい技、新しいアイテムが出て来るだけで、あっさりと揺らいじまう事だってある)
フライゴン (そういう不安定な土台の上に、強さってのは乗っかってる)
フライゴン (そんな危なっかしい場所でお前は、これから先ずっと、戦い続けて、勝ち続けていかなきゃならねえんだな)
フライゴン (お前は強さを諦める事ができるんだろうか)
フライゴン (強さ以外の、何か大切なものに、気付く事ができるんだろうか)
フライゴン (ガキの頃から、強者として生きていく事が、義務になっちまったお前に…)
フライゴン (………)
フライゴン (俺には、祈る事しかできねえ…)
フライゴン (お前の旅が、終わりをむかえるその日まで)
フライゴン (ずっと、高く、飛び続けられるように)
ガブリアス「………」
おわり
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